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「今年のロボット」大賞 2007 受賞者インタビュー

2台のM-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング

ファナック株式会社 代表取締役社長 工学博士 稲葉 善治
ファナック株式会社
代表取締役社長
工学博士 稲葉 善治

第二回目となる「今年のロボット」大賞2007においては、ファナック株式会社の「2台のM-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング」が「今年のロボット」大賞(経済産業大臣賞)を受賞しました。

今回は、ファナック株式会社の代表取締役社長、工学博士の稲葉善治様に、受賞後の反響や、今後の展望等についてお聞きしました。

商談がスムーズに

「今年のロボット」大賞2007での大賞受賞おめでとうございます。受賞後の反響はいかがでしたでしょうか。

稲葉

当社では、受賞した「M-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング」を当社の中央テクニカルセンタおよび名古屋テクニカルセンタに常設展示しています。ここには多くの国内外のユーザが訪れますが、ご覧になった人は一様に、M-430iAの動作速度の速さに感心されます。

受賞後は、TVや新聞などマスコミ各社が取材に来られました。特にTVは、NHKおよび民放各局が取材に来られ、ある民放局では、商品箱詰めのベテランの女性が登場してM-430iAと箱詰めのスピードを競い、申し訳ないがM-430iAが勝たせてもらいました。

受賞後はおかげさまでユーザの関心も高く、商談を有利に進められることも多くなりました。

新顧客の広がりに期待

今後、どのような分野にロボットの市場展開を期待していらっしゃいますか。

稲葉

産業用ロボットは、機械工業分野、とりわけ、自動車、自動車部品分野に導入が進み、これまで生産性向上によるコストカットや作業安定化による品質向上に大きく寄与してきました。

一方、食品・医薬品ハンドリング分野においては、ロボットでは高速処理能力が追いつかない、清潔性が十分確保できないといった課題があり、これまでロボット化はあまり進んでいませんでした。しかるに、昨今のグローバル化による厳しいコスト競争により、この分野においても自動化の要求は急速に高まってきました。

ファナックはこれらの点に着目し、ロボットの高速・連続稼動性と清潔性確保を課題として研究開発を進め、今回受賞したM-430iAの開発に至りました。

今後は、従来の機械工業分野に加え、食品・医薬品ハンドリング分野においてもロボット化が急速に進むことを期待しています。

高速な処理能力と清潔性の確保

具体的には、食品・医薬品ハンドリング分野では、どのようなニーズが高いのでしょうか。

稲葉

一般に、食品・医薬品ハンドリング分野における処理能力については、コンベアを高速で流れてくる食品などの製品一つひとつを別のコンベアに整列・移載したり、容器や包装箱などに箱詰めしたりする作業を1分間に何個こなせるかが問われます。

1ラインあたり、100個/分から200個/分、場合によっては、300個/分を超える搬送工程もあります。

食品・医薬品ハンドリング分野における個別製品の小箱への箱詰め作業(ピッキング工程)については、これまでのロボットではせいぜい1分間に60個程度がやっとでした。開発を開始した当初、開発チームはこれを1台のロボットで80個程度こなせるようにし、2台のロボットを用いることで、120個から150個程度の処理能力を実現することを計画しました。

しかしながら、セールス部門からの要求は、2台のロボットではなく、1台で目標の処理能力「1分間に120個」を実現する高速ロボットを開発して欲しいという、極めて厳しいものでありました。

さらにピッキング工程を細分化して詳細をみると、食品や医薬品の製造では、容器の洗浄、充填、滅菌、検査、包装などの工程があり、材料や容器などを工程間で搬送することで、製品に仕上げていきます。

これらの工程では、ワークとしての材料や容器はバラバラの状態でコンベアにより供給されます。後工程に搬送するためには、ワークをバラバラの状態から整列させる必要があり、人手で行われていたこれらの作業を自動化することも求められました。

清潔性確保については、これまでの産業用ロボットは、殺菌洗浄に用いる酸・アルカリ洗浄液による丸洗いに耐えるものではなく、また、手首のハンドへの信号線・エアの配線・配管はロボットのアームを這い、必ずしも食品・医薬品を製造する環境に適合したロボットではなかったのです。

今回の食品・医薬品ハンドリングロボットM-430iAは、これらの課題に対するソリューションを製品化した初めてのロボットなのです。

2台のM-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング
2台のM-430iAのビジュアルトラッキングによる高速ハンドリング

すでに200台以上が稼働、更に国内外での導入が加速

生産現場のニーズを的確にとらえ、またそのニーズを実現させた技術の高さが、世界で認められているM-430iなのですね。現在、世界中でどのくらい稼働しているのでしょうか。

稲葉

M-430iAはおかげさまで、平成18年10月発売後、平成20年6月現在、全世界での販売台数は通算200台を越え、最近では販売実績が更に加速しています。

国内では、化粧品容器の整列、医薬品容器の小箱製造機への整列供給など、製薬会社にて商談が進行中です。

また、食品製造分野では、ハム・ハンバーグ・かまぼこなどの食品をピッキングして真空包装機に投入する工程、パンにクリームの塗布・充填する工程での商談が進行中です。

バイオ分野での活用でも販売実績あり。滅菌できる特長を生かし、無菌環境のアイソレータ内での作業の自動化に本ロボットを活用していただいています。

海外では、チョコレート、焼き菓子、チーズブロック、ホットドックのピッキング、無煙タバコのピッキング、その他、食品トレイ、医療用機器のハンドリングなど導入いただいています。

また、現在、冷凍サンドイッチ、冷凍ピザ、朝食シリアルなどのピッキング工程での商談も進行中です。

ロボットシステム全体の安全性を高める

ハンドリングロボットのますますの活躍に期待したいですね。ロボット市場を拡大するにあたり、当面の課題としては何でしょうか。

稲葉

工場の中でロボット化されていない領域はまだ多く存在し、産業用ロボットが活躍できる場は、まだまだ広がると思っています。人の能力は非常にすぐれており、人でなければ出来ない仕事は多いのですが、現在は、人がやらなくてもよい付加価値の低い仕事をまだ人がやっているケースも多いのです。

3K作業はもちろんですが、このような付加価値の低い作業は、出来るだけロボット化することが生産性の向上、競争力の向上につながると思っています。

また、今後、ロボット市場がさらに拡大するためには、周辺機器を含めたロボットシステム全体の安全性を高めていく必要があります。

当社では、DCS(Dual Check Safety)と呼ぶ、独立した2系統の安全チェックシステムを採用し、安全性を高めていますが、さらに厳しい安全基準を満たすべく日々努力しているところです。

工作機械と知能ロボットの融合、組立作業の自動化

御社のロボットへの期待と展望をお聞かせください。

稲葉

食品・医薬品ハンドリング分野の最終製造段階には、個別製品の小箱への箱詰め作業(ピッキング工程)、この小箱のダンボールへの箱詰め作業(パッキング工程)、このダンボール箱のパレット上への積み上げ作業(パレタイジング工程)があります。

ピッキング工程における今後の技術的展開としては、さらなる高速化によるピッキング能力向上、特殊使用環境での耐性強化です。

ピッキング能力向上については、さらなるロボット本体の軽量化、モータ性能向上とともに、より高速のコンベア動作に追随できるビジュアルトラッキング機能も求められます。

特殊使用環境への対応については、医薬品の製造現場にはアイソレータと呼ばれる滅菌環境での作業空間があります。このアイソレータ内でのハンドリング作業に対する耐性を持たせた機種を開発し、鋳物表面処理を平滑に仕上げるとともに、無塗装として、過酸化水素ガスでの滅菌に対する耐性を強化していますが、今後は、さらに厳しい特殊環境での使用が求められると想定しています。

当社のロボット全般について今期待しているのが、「工作機械と知能ロボットの融合」です。

加工システムは、長時間連続稼動すれば、加工コストを下げることができます。当社では、2000年代始めに、工作機械の加工治具に素材を精度よく取り付けることができる知能ロボットの開発に成功しました。夜間や休日に人に代わって知能ロボットが工作機械へのワーク着脱やバリ取りなどの作業を行うことで、加工システムを長時間連続稼動できるようになりました。

この知能ロボットを導入した加工システムを「ロボットセル」と呼んでいます。最近は、小型工作機械に知能ロボットがワーク着脱を行う「ミニロボットセル」を開発し、好評を頂いています。

次に我々が期待しているのが、機械工業において、加工とともに重要な位置を占める組立作業の自動化です。

機構部品については、力センサを搭載した知能ロボットによる、オートマチック車のクラッチユニット組立や、電動射出成形機のトグル機構組立などの例があります。我々は最近、従来に比べ50倍剛性の高い次世代力センサの開発に成功しましたので、組立作業のロボット化を加速していきたいと思っております。

ありがとうございました。

稲葉社長の力強いそして自信に満ちたお言葉に、本格的なロボット社会の到来を感じました。高速ハンドリングロボットの世界に誇れる高い技術力と、これからの新分野への市場展開に大きく期待したいと思います。