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2006 受賞ロボット
受賞者インタビュー
ロボットによるビルの清掃システム
実施記録

「今年のロボット」大賞 2006 受賞者インタビュー

ロボットによるビルの清掃システム

富士重工業株式会社 戦略本部クリーンロボット部長 工学博士 青山 元
富士重工業株式会社
戦略本部クリーンロボット部長
工学博士 青山 元

「今年のロボット」大賞は、ロボット技術の開発と事業化を促進し、技術革新と用途拡大を目的に、2006年に創設されました。その第一回である「今年のロボット」大賞2006において、「今年のロボット」大賞(経済産業大臣賞)を受賞したのが、富士重工業と住友商事が共同開発した「ロボットによるビルの清掃システム」です。

今回は、富士重工業戦略本部クリーンロボット部の青山部長に、受賞後の反響や、社内外の変化、受注の状況、今後の展望等についてお聞きしました。

加速した営業案件

「今年のロボット」大賞2006での大賞受賞おめでとうございました。受賞後問い合わせ対応が大変だったとお聞きしていますが、反響についてお聞かせください。

青山

栄えある第一回目の大賞をいただき大変光栄です。今回の受賞は、住友商事さんとの共同で長年チャレンジしてきたシステムでしたので、社内外の関係者全員にとって、とても感慨深いそして心強い賞となりました。

これまで、私どもの部署が取り組んでいる実用ロボットという分野は、どちらかというと注目されにくく、ロボットの実用化なんてもうちょっと先という社会認識の中で、社内も営業先にもなかなか導入メリットを理解していただくことが難しい状況でした。

今回の受賞をきっかけに、各営業案件における導入への意向がより強くなっていったのは実感しました。「営業先の担当者が社内での決済にOKが出た」や「再検討を進めたい」といった声が数多く出てまいりました。

大賞をいただいたということは、私どものロボットシステムを国から認めていただいたということで、これは何事にも変えがたい印籠のようなものです。

これまで様々な部分で踏ん張ってきたチームメンバーが、社内そして営業先の担当者含め、大きな自信を持つことができました。また、責任感を持ってシステム導入をしなければという意識もより強くなり、私どもの部署も以前にも増して全員の志気が上がりました。

「社会・環境報告書2007(富士重工業)」では受賞の意義が述べられた。
「社会・環境報告書2007(富士重工業)」では受賞の意義が述べられた。
社内報「秀峰」では、受賞の報告とクリーンロボット部が詳細に紹介された。
社内報「秀峰」では、受賞の報告とクリーンロボット部が詳細に紹介された。

具体的には、どのような案件状況となりましたか。

青山

はい、とにかく受賞発表後すぐに、弊社広報には、外部からの問い合わせが相次ぎ、うれしい悲鳴をあげることになりました。まさか大賞をとれるなんて思っていませんでしたので、解説資料等も200部しか用意していなかったのですが、パンフレット含めてすぐに増刷することになりました。お問い合わせいただき、授賞式・展示会場までわざわざ足を運んでいただいて説明をさせていただいた方だけでも600件を超えました。

また、韓国、中国、インドネシア等アジア圏からの問い合わせも大変数多くいただきました。しかしながら、海外は本事業のサービス拠点が未整備なため、残念ながら当面お断りする状況となりました。まずは国内の導入へ向けて集中することにしました。

私どものロボットは、単体ですぐにお使いいただけるものではなく、人とロボットが協調したビルの最適な清掃方法の検討、エレベータシステム等との調整など、トータルソリューションとしての清掃システムですので、導入まで時間が多少かかります。そういう意味で受賞後に進んだ案件がやっと現在導入できる時期にあります。

具体的には、受賞後に導入された案件は、病院や製薬会社の工場、東京都内のマンションなどがあります。また現在導入検討中のものが、東京エリアで5件、名古屋で4件、大阪で1件程度あります。さらに、大手持ちビル会社では、所有の全ビルについてロボットの導入検討チームを結成しているところもでてきました。

労働力不足が予想より早くやってきた

清掃ロボットへの市場ニーズはどのような状況ですか。

青山

思い上がりかもしれませんが、市場ニーズという考えはありません。市場を創出することが基本的な考え方です。そのためにロボットが認知されることが必要であり、更にロボットを使えるフィールドがあるかが問題です。そして作業者より作業コストが安ければ、ロボットは導入されます。繰り返しますが、世の中へのロボットの認知という点で、今回の受賞は、我々にとって大きなメリットだったのです。しいて言えばそのニーズは、清掃業務に関する「労働力不足」の解消にあります。私どもの予想では、あと4-5年先に労働力不足が発生すると考えておりましたが、その波は意外と早くやってきました。

近年のマンション、オフィスビルの建設ラッシュに、メンテナンス体制が追いつくのは大変です。特に清掃部門は、大規模化するオフィスビル、マンションなどで、導入メリットがはっきり見えてきました。ビルの廊下、エレベータホール等の共用部を中心に、ロボットと人が共同で清掃分担することで、大変効率の良いサービスを提供することが可能になりました。特に最近は、清掃コストの上昇のため、清掃面積が1フロア250平米程度で15階程度以上の高層ビル(従来は、20階以上の高層ビルを想定)ならばロボットシステムの導入メリットがあります。今後は、共用部分だけでなく事務所など専用部分にも清掃範囲を広げ、より広くユーザに対応したサービスシステムを構築していきたいと考えています。

顧客拡大と新たな課題へのチャレンジ

新規顧客は広がりましたか?

マンション導入に向けて改良された屋外型清掃ロボット
マンション導入に向けて改良された屋外型清掃ロボット

青山

はい、これまではオフィスビルが中心での導入でしたが、ここにきて、病院や製薬会社の工場、マンションへの導入・検討が加わり、顧客の幅が広がりました。

そして新規案件の中からは、新しい市場での導入課題が発生し、さらなるロボットの進化を迫られることになりました。

病院では、患者さんへの配慮、マンションでは、妊婦さん、高齢者等に対しての配慮で、昼間、夜間問わず、静寂な清掃ロボットが必要になり、駆動部やロボットの防音のために外装などを改良しました。また、病院や製薬会社の工場では、ゴミの巻上げ、排気の微塵など、ブラシ形状変更、高品質な防塵フィルターの搭載などの改良も行いました。

病院では、患者さんへの配慮、マンションでは、妊婦さん、高齢者等に対しての配慮で、昼間、夜間問わず、静寂な清掃ロボットが必要になり、駆動部やロボットの防音のために外装などを改良しました。また、病院や製薬会社の工場では、ゴミの巻上げ、排気の微塵など、ブラシ形状変更、高品質な防塵フィルターの搭載などの改良も行いました。

マンション等のハードフロアの屋外仕様では、防水、通路端まで清掃可能なサイドブラシやロールブラシの清掃装置の開発、実用化を図りました。これらの機能を搭載するとともに、より安全で安定したシステムを提供することに集中しました。

おかげさまで、お客様のご協力をいただきながら、試験導入と改善対策の繰り返しで期待にそえるロボットシステムを組み上げることができました。しかし、満足せず、更に改良・改善に取り組みます。

このように受賞のきっかけにより、私たちは新たな課題をご提供いただき、さらにロボットシステムを進化させる経験をさせていただきました。大変感謝すべきことだと思います。こうした関係性の中からロボット産業の市場が湧き上がってくる実感を得ました。

ロボット市場導入へのサポート強化

ロボットを導入する環境は整ってきましたか?

青山

市場が徐々に形成され、ニーズが高まってきていることは大変ありがたいし、応えなければならないという開発者のエネルギーにもなります。一方で、企業が自分の商品として世に送り出すためには、他の家電商品同様、運用での安全面、保証、メンテナンス、導入教育といったソフト面でのサポートの整備が急務となってきました。

昨年の12月には弊社も含めて、産官学連携での「ロボットビジネス推進協議会」が発足し、メーカーとサービスを提供するサービスプロダイバーが一体になって新しいビジネス環境、制度をつくっていくことを目的に活動をスタートさせました。受賞後、そのロボットビジネス推進協議会で検討していた、清掃ロボット保険が急速に進展し、清掃ロボットに関する様々な保険が適用になったことは、ロボット市場の拡大を加速させる大きな一助になります。この保険では、ロボットが働く施設への保険、ロボットシステムのPL保険また、デモ時、引き渡し前の保険、ロボットリースなどビジネスシーンにあわせた保険商品が保険会社大手三社から提供されます。

更に、経済産業省のロボット実用化施策があります。経済産業省とNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「次世代ロボット実用化プロジェクト」での屋外型清掃ロボットの開発・実用化と、「愛・地球博」での実証により得たノウハウの清掃ロボットへの活用、「サービスロボット市場創出支援事業」による市場導入の容易化、そして今回の「今年のロボット」大賞によるロボットの認知などが非常に有効に効力を発揮したと思います。

こうしたビジネス環境の整備促進が、ロボット市場の拡大には必須です。

清掃ロボット市場は、どのようなロボットを開発する段階から、どのようにロボットを作るか、そして、流通、サポートという市場創出からビジネスとしての整備段階に入っています。

今やるべきことは多能工の育成

今後の課題と展望についてお聞かせください。

青山

やらなければならないことは、山ほどありますが、今はとにかく、ロボットのハード、ソフトも含め、生産上の品質を管理する体制づくりを強化しなければなりません。

ニーズが高まり、導入案件が急増しましたが、生産ラインを敷くほどの投資はまだできません。ニーズに合わせたロボットを生産するには、幅広い技能をもって、確実に手づくりできる技能者が必要です。

ロボット工学を理解し、電気・電子、新素材、金属加工、溶接などの技能を持つ「多能な技能者」とともに、これらの技術がわかり、設計ができ、更に導入現場のニーズ把握、コミュニケーション能力を持つ万能なスタッフが必要です。特に最近、メカの設計技術が軽視されています。余談ですが、ものづくりは、「設計図面に始まり、設計図面に終わります。」これは、制御ソフトのドキュメンテーションも同様です。問答無用で若手エンジニアには、毎日、たたきこんでいます。こうした人々が育たなければ、ロボット市場は育ちません。私の師(私は、最後の門下)である、名車といわれたスバル360、スバル1000の開発の全責任を負い、陣頭指揮で開発を行った故百瀬晋六の語録に、「言葉じゃだめだ。図面を良く書いて持って来い。」、「人を育てろ。人が育たなければ、良い車は造れない。」との言葉があります。ロボットにも、そのまま当てはまります。製品が変わっても不変です。これが富士重工業(スバル)の伝統です。ジレンマではありますが、そこをクリアしないとロボットの安全性の確保をはじめ、人の役にたつロボットを生み出すことはできません。

おかげさまで、大賞をいただき社内外からの協力は大変得やすくなりました。このチャンスを活かして、よりステップアップしたロボットシステムを構築していかなければと考えています。

これからの野望は?

青山

いやいや野望なんて。まだやっと自分たちのイメージしていたロボットを売るベースができあがったといった感じです。これからが本当の勝負なんです。ひとつひとつの積み重ねをやっていくだけです。

大賞に恥じないロボットシステムを導入していくことが使命です。

ただ、将来の話として、興味があるテーマは、「健康」です。

人はいくら便利な世の中になっても、体なくしては幸せはありません。自分の日々の生活の反省も含めまして、「健康」を軸にしたロボットの開発もやってみたいとは思っています。

ありがとうございました。

企業人として、大変厳しい指導力を発揮していらっしゃる青山氏のお話の中には、ロボット市場拡大への強い意思とチームメンバーやお客様へのやさしい愛情を強く感じました。